発達障がいの問題を対話的に考える視点

  障がいの問題を文化心理学的に考えるとどうなるでしょうか。障がいをめぐる諸現象を素直に見つめれば、それは決して固定的なものではなく、時代や社会やその人の生きる文脈によって次々に変化し、多様な表れをしてきているものです。障がいを「障がい者」の内部にあるなんらかの実体のように考えるのではなく、定型発達者との「間」にその時々に生ずる相互理解のむつかしさ、コミュニケーションの困難さ、共同作業の成立のし難さとして考える、という視点がそこから導かれることになります。

  定型発達者を基準とした、一方的な視点からの議論ではなく、障がい当事者の視点との交差の中で発達障害という問題を考え、そしてお互いの関係の調整法のひとつとして「療育」を考えることがこれからますます必要になるでしょう。それは今ようやくその価値を認められつつある「(障がい)当事者研究」の次のステップ、「定型者発達者と生涯発達者の共生のための対話研究」という形をとることになります。

  私は異文化間コミュニケーションを始め、これまでいくつかの領域で「異質な者同士の共生」という問題を「ディスコミュニケーション研究」という視角から行ってきました。そこから「差の文化心理学」という新しい見方を提起するようになりましたし、関連する諸概念(EMS、規範的媒介項、機能的実体化、具体的普遍化など)を提案してきています。

  そのような視点から、改めて発達障がいの問題を整理するとどうなるか。対話的研究がそこからどのように展望されるか。その試論を以下の研究会で行います。

 

■第12回文化理解の方法論研究会(MC研)

【日時】2017年6月17日(土)15:00~18:00(終了後に懇親会を予定しています)

【会場】青山学院大学 青山キャンパス (9号館3階 932教室)

【参加費用】無料

【参加方法】出席を希望される際には、事前にこちらからお申し込みください。

【発表:研究発表】15:00~

タイトル:異文化間コミュニケーションの視点から見た発達障がいと発達支援

発表者:山本登志哉(一般財団法人 発達支援研究所)

内容: 発達障がい児・者を、その特性のゆえに定型社会との間でディスコミュニケーションに陥っている少数派の人々という視点から見ることで、障がいを「障がい者」の側に一方的に帰属させるのではなく、定型者との間に発生するものと位置づけることが可能になる。このとき、支援とは異質な生き方を持つ主体同士のディスコミュニケーションの相互的な調整過程として再定義され、一種の異文化間相互理解の実践として考察する道が開かれる。以上の議論を「差の文化心理学」の視点から、EMS概念を用いつつ展開する。

■研究者に限らず、どなたでも無料で参加できます。

 

 

Cultural Psychology of Differences and EMS

 発達障がい児・者への支援を「異質な感じ方、考え方、ふるまい方」を持った人間同士の「相互理解」の問題として考えてみる、というのが私の基本的な研究スタイルです。このようなスタイルは障がい者と定型発達者の間の相互理解にとどまらず、男女の違い、世代の違い、身についた職業的な考え方の違い、大人と子供の違い、文化社会の違いなどなど、さまざまな領域で「異質な者同士が出会ったとき」に常に問題になることです。

 この「異質な者同士のコミュニケーション」の問題については、かつて高木光太郎さんたちと、3年ほど議論を積み重ねて「ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち」(山本・高木編 2011 、東大出版会)にいったん整理してまとめてみたことがありますし、先日ご紹介した日中韓越の国際共同研究の成果をまとめた「子どもとお金:おこづかいの文化発達心理学」(高橋・山本編 2016、東大出版会)でもずっと問題にし続けてきました。

 これらの議論の基本的な考え方については、すでにケンブリッジやオックスフォードの文化・社会心理学のハンドブックなどでも紹介をしてきましたが、そのうち、「異文化間の相互理解・コミュニケーション」の問題に焦点を当てながら、それらのディスコミュニケーションとしての社会的行為・社会システムの成り立ちについて、一般的に分析する理論的な枠組みを整理して論じたものが「文化とは何か、どこにあるのか:対立と共生の心理学」(2015、新曜社)という本になります。

 そこで提示された「差の文化心理学」の議論は、そのまま発達障がい児・者と定型発達者のコミュニケーションの問題を考えるためにも使えますが、その理論的な枠組みを用いて、異文化間の対話的な相互理解の実践研究について論じた次の理論論文が、このほどweb上で公刊されました。(紙媒体の雑誌としては少しあとになります)

Yamamoto, T. (2017)  Cultural Psychology of Differences and EMS; a New Theoretical Framework for Understanding and Reconstructing Culture,  Integrative Psychological and Behavioral Science, 51(3) , DOI 10.1007/s12124-017-9388-4

 これは以前にご紹介した、2016年の国際心理学会でのシンポジウムでの発表を論文化したものです。このシンポジウムでコメンテーターを引き受けてくださったValsiner, J.さんからの依頼で、彼がチーフエディターをしているIntegrative Psychological and Behavioral Scienceという学術誌に私たちの共同研究グループで同シンポの特集号を組むことになり、それのために、発表者がそれぞれ論文を作成したもので、ほかの論文も間もなく公刊される予定です。

 

 障がい者と定型発達者の関係は、「力のあるものがないものを援助する」という枠組みで考えられることが多いと思いますが、障がい者の立場から見ると、それでは「自分は<援助していただいている>という弱い立場」だと自分を感じざるを得なくなります。また「援助」する側も「自分は<援助してあげている>」という感覚になってしまうことがよくあります。

 単に「資源を誰が誰に対して供給するのか」といった面で考えると、そのような見方が成り立つ場面があることも間違いのないことですが、それだけを見てしまうと、お互いの関係は「優劣」の面しか見えてこないことになり、「対等な人間同士の共生的な関係」を模索することが不可能になっていきます。

 そのような危険を避けて、「異質な者同士がいかに共生するか」という視点から問題を見直してみるための理論的な基礎作業の一つとしても、上の論文は書かれました。