Cultural Psychology of Differences and EMS

 発達障がい児・者への支援を「異質な感じ方、考え方、ふるまい方」を持った人間同士の「相互理解」の問題として考えてみる、というのが私の基本的な研究スタイルです。このようなスタイルは障がい者と定型発達者の間の相互理解にとどまらず、男女の違い、世代の違い、身についた職業的な考え方の違い、大人と子供の違い、文化社会の違いなどなど、さまざまな領域で「異質な者同士が出会ったとき」に常に問題になることです。

 この「異質な者同士のコミュニケーション」の問題については、かつて高木光太郎さんたちと、3年ほど議論を積み重ねて「ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち」(山本・高木編 2011 、東大出版会)にいったん整理してまとめてみたことがありますし、先日ご紹介した日中韓越の国際共同研究の成果をまとめた「子どもとお金:おこづかいの文化発達心理学」(高橋・山本編 2016、東大出版会)でもずっと問題にし続けてきました。

 これらの議論の基本的な考え方については、すでにケンブリッジやオックスフォードの文化・社会心理学のハンドブックなどでも紹介をしてきましたが、そのうち、「異文化間の相互理解・コミュニケーション」の問題に焦点を当てながら、それらのディスコミュニケーションとしての社会的行為・社会システムの成り立ちについて、一般的に分析する理論的な枠組みを整理して論じたものが「文化とは何か、どこにあるのか:対立と共生の心理学」(2015、新曜社)という本になります。

 そこで提示された「差の文化心理学」の議論は、そのまま発達障がい児・者と定型発達者のコミュニケーションの問題を考えるためにも使えますが、その理論的な枠組みを用いて、異文化間の対話的な相互理解の実践研究について論じた次の理論論文が、このほどweb上で公刊されました。(紙媒体の雑誌としては少しあとになります)

Yamamoto, T. (2017)  Cultural Psychology of Differences and EMS; a New Theoretical Framework for Understanding and Reconstructing Culture,  Integrative Psychological and Behavioral Science, 51(3) , DOI 10.1007/s12124-017-9388-4

 これは以前にご紹介した、2016年の国際心理学会でのシンポジウムでの発表を論文化したものです。このシンポジウムでコメンテーターを引き受けてくださったValsiner, J.さんからの依頼で、彼がチーフエディターをしているIntegrative Psychological and Behavioral Scienceという学術誌に私たちの共同研究グループで同シンポの特集号を組むことになり、それのために、発表者がそれぞれ論文を作成したもので、ほかの論文も間もなく公刊される予定です。

 

 障がい者と定型発達者の関係は、「力のあるものがないものを援助する」という枠組みで考えられることが多いと思いますが、障がい者の立場から見ると、それでは「自分は<援助していただいている>という弱い立場」だと自分を感じざるを得なくなります。また「援助」する側も「自分は<援助してあげている>」という感覚になってしまうことがよくあります。

 単に「資源を誰が誰に対して供給するのか」といった面で考えると、そのような見方が成り立つ場面があることも間違いのないことですが、それだけを見てしまうと、お互いの関係は「優劣」の面しか見えてこないことになり、「対等な人間同士の共生的な関係」を模索することが不可能になっていきます。

 そのような危険を避けて、「異質な者同士がいかに共生するか」という視点から問題を見直してみるための理論的な基礎作業の一つとしても、上の論文は書かれました。

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