まずは簡単に自己紹介から。
昔から子どもが好きで,大学院生時代は保育室のパートの保父をやったりしていました。私の学んでいた京大の発達心理学は浜田寿美男さんや麻生武さん,あるいは田中昌人さんたちの独創的な研究にも代表されるように,「現場から自分の視点で考える」という伝統があり,私も学生時代から先輩に連れられた障がい児支援の施設などでの発達相談に長くかかわってきました。
私は当初ピアジェの一連の実証・理論研究に心酔していましたが,社会性発達の問題を考えると,彼の議論が決定的に限界を持っていることも明らかでした。また浜田さんや麻生さんたちからは,現象学的な視点を見据えつつ「自閉症」の問題,そしてさらに一般的に「人が人を理解し,自分を理解すること」の意味を根底からとらえ返す議論にも大きな影響を受けました。いずれもピアジェでは原理的に解けない問題群です。
現在は人の社会文化的な発達とコミュニケーションの基本構造をEMS(拡張された媒介構造)という概念で説明し,分析する議論を研究仲間と展開していますが,それらの基本的な視点はすべて「現場」での子どもとの接触や,障がい児支援をされている現場の先生方との事例検討会での議論を積み重ねる中で培われてきたものです。
その後さまざまな研究を経て,80年代からアメリカでも現在文化心理学・社会文化心理学などの言葉で新たな展開を見せている一連の心理学研究に合流する形で,ヴィゴツキー系の議論とも結びつくようになり,個人の内面心理から社会システムまでを一貫して説明する理論展開を試み,その中で改めて「障がいとは?」「支援とは?」をとらえなおしてきています。
そのように現場から出発した理論構成であるせいか,EMS概念の中でも重視している「ツール」という文化心理学的な概念で発達支援について研修を行うと,分かりやすいとみなさんに言っていただけます。
人は人の中で育ち,人とのつながりを作って歴史的,社会的,文化的に生きる。障がいの問題もその中で見て初めて個別の認知能力などに限定されない,人として生きることのトータルな姿を見ることができます。また激変する社会の中で,まったく新しい生き方が次々に展開していく,そのような未来への視線を保ちつつ,障がいと支援の問題をとらえなおすことが可能になります。
現在,発達障がい支援にとって最大の眼目は二次障がいを如何に減らすかということだと思います。また発達障がい問題で有名な医学者の榊原洋一さんも最近強調されていますが,これからの社会を考えると,「障がい」をどう「治療するか」という観点ではなく,お互いにとても異なる「個性」を持った者同士の共生関係をどう作れるか,が大きな課題になっていると切実に感じています。
将来的には障がい当事者の方たちと一緒に問題を考え,共生のための新たなツールづくりを共にしていくことができるとよいなと思っています。